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今だから…

2008/12/03(水) 21:39:02
このひとは、わたしを、束縛しないだろうか。
このひとは、わたしを、養ってくれるだろうか。


今までは、心の何処かで必ず冷静に検討していたそういう事を、一切考えなくても済む関係。

それが、今の彼と、わたしの関係。

彼の声を聴きたい。
彼の匂いを嗅ぎたい。
彼の手で触れられたい。
抱き締められて、突き入れられて、息も絶え絶えになる程かき回されたい。

わたしの心が、わたしの身体が、ただひたすらに、彼を求める。


一切の打算を捨て去り、欲望だけに忠実に、愛おしく想う純粋な気持ちを最優先事項に据えて、彼と共に時を過ごせる幸せ。

今のわたしだからこそ、噛みしめる様に味わう事の出来る、最高の、幸せ…。




無題

2008/12/04(木) 12:50:05
  あんたの言葉に、私がどれだけ傷付いたか解る?
  そりゃ私のした事も、良くなかったかも知れない。
  でも、あんたを心配してただけなのよ。
  私は今でも、あんたの味方よ。
  それなのに…。
  本当にひどい…。
  凄く傷付いた…。


この人は、何を言っているんだろう。


ひとに自分が傷付いた事を主張する前に、
自分は相手をどれだけ傷付けたか、
省みる事は、
無いのだろうか。

ひとにひどい仕打ちを受けたら、まずは、
そうされる原因を自分に確かめる事は、
無いのだろうか。

原因の一端を己に見出したら、
自分の感情だけを押し付けて
嘆いて見せるべきではない、とは
考えないのだろうか。



それとも、
こういう考え方をしてしまうわたしの方が、
どうかしているのだろうか。

実は、相手のした事など、
世間一般的には何ら非難されるべき事ではなく、
わたしだけが繊細ぶって傷付き、
執念深く許せずにいるだけなのだろうか。

きっと、そうなのだろう、と、考える努力をする。

許せない。
けれど許すべき。
怒り狂いそう。
けれど笑っているべき。

わたしは、何も、感じていない。
悪いのはわたしなのだから、感じてはいけない。

何度も何度も何度も何度も、己にそう言い聞かせる。
笑顔を作る。
謝罪の言葉さえ口にする。



何かが、身体の中で、暴れている。




宣告

2008/12/05(金) 11:57:42
この半年間、彼は、一度もわたしを責めていない。
道具として使用される事はあるけれど、縛ったり、鞭打ったり、蝋を垂らしたり…という責めは、全然やっていない。

これは単に、そういう事の出来る場所で逢わないからだと思っていた。

彼の家で抱かれる時は、声すら漏らさぬ様に気を付ける。
わたしの家で抱かれる時は、多少の声なら外には漏れないけれど、隣家の室内犬の吼え声が、微かに聞こえる事から察するに、気を付けるに越した事は無いだろう。
そんな環境では、わたしが泣き叫び、悲鳴を上げ続ける様な行為は、出来ない。

つまり、ホテルで逢わないから、責めないのだろうと、思っていた。


先日、久しぶりにホテルに行った。

彼の責めを、受けるかも知れない…。
期待と恐怖の入り混じった複雑な想いが、わたしの動悸を早くする。
ハンドルを操作する手が、微かに震える。

  風呂はいろうぜ、風呂。

けれど、部屋に入るなり発された彼のこの一言が、その後の流れを決定付けた。

  今日は俺、疲れてるんだ。
  お前を責める元気なんかねえ。
  それより、風呂に入って、ゆっくりしようぜ。


大声で、『え~~~~っ!』と言いそうになってしまった。

けれども、彼が疲れているというのなら、しょうがない。
このところ随分と忙しそうだったし、確かに疲れが溜まっている頃でもあるだろう。

『今日は、責めて欲しかったの…』

だからわたしは、この言葉を、喉の奥に押し込んだ。


お風呂で、彼の身体を丁寧に洗う。
一緒に湯船に浸かり、色んな会話を交わす。
上がったら、彼の身体にマッサージを施す。
睡魔に襲われたら、布団に包まって微睡む。
彼が欲情したら、わたしに好きな体勢をとらせ、ペニスを突き入れて攻め立てる…。

彼の本能のまま、彼のやりたい様にされながら過ごす時間は、責めが無くても濃密だ。
抱かれる時も、声を上げない様注意する必要が無い分、彼がわたしの中で暴れる感触を、存分に貪る事が出来る。
けれども、わたしの中には、『使われ足りない…』という想いが、依然居座ったままだった。


  やっぱりホテルはいいな。
  セックスに集中出来る。


言いながら彼が、わたしの身体を撫でまわし、揉みしだく。

  うん。そうね…。

暫しの沈黙の後、彼が、わたしの下腹部の贅肉を抓り始めた。

  俺がお前を責めなくなったのは、
  ひとつにはお前が肥った所為もあるな。
  こんな身体を縛ったって、醜いだけだろ。
  そんなもん、見たくねえ。


呼吸が、止まった。

  まぁ、お前も判ってるだろうが、
  お前の身体で俺が勃たなくなったら、
  もうお前には用が無いぞ。
  棄てる。


腹話術人形の様に、カクカクと首だけを動かし、彼の言葉を聞いているという意思表示をする。

  来年1年、猶予をやる。
  せめて、出逢った頃の体型を取り戻せ。
  でないと…言わなくても、判るな?


耳元で囁かれている筈のその声は、とても遠くで、妙にこもって聞こえた。




無題

2008/12/06(土) 20:52:08
何を一番優先すべきなのか

わからない。



向き合う

2008/12/10(水) 00:47:34
わたしは、対人関係において、誰かの事を『この人のこういうところ、嫌だな』などと考えても、そういう風に考えてしまう自分の方が悪い様な気がしてしまって、その気持ちを打ち消し、考えなかった事にする。
『でも、こういうところもあるんだから、悪い人ではない』と、肯定的に考える努力をする。

仕事上の付き合いなら、これで十分だろう。
個人的な感情を介在させた結果、円滑に仕事が出来ない状態にしてしまう訳にはいかないし、その人間関係はあくまでも仕事中だけの事。
完全に割り切る事さえ出来てしまえば、私生活にまで影響は、及ぼさないからだ。

けれども、私的な知り合いは、そうではない。
『こういうところ、嫌』という思いを、何度も何度も味わう事になる。
そしてその都度、嫌だと感じる自分を責める。
自分の性格が捻じ曲がっているから、そういう風に感じるのだ…と、考える。
肯定できる部分だけを見なければならない、と、言い聞かせる。

これで、何も問題がないのなら、それで良い。
しかし、そうではない。

大抵の場合、まず、胃に来る。
激痛や、口の周囲の吹き出物という形で、わたしに不調を訴える。
胃を壊すと、歯が痛くなる。
奥歯を食いしばる様になる為、歯に負担をかけるのだ。
そしてそれはやがて、頭痛という形でわたしを苦しめ始める。
そうなって初めてわたしは、わたしが大きなストレスを抱えている事を認識する。
そしてその原因が、対人関係にある事に気付き、暗然とするのだ。


最近、やっとわたしは、自分自身を騙し続ける事は結局出来ないのだ…という事を、実感として学んだ。
心は騙せても、身体は騙せない。
自分を騙した代償として、必ずわたしの心身が蝕まれるのである。

それに、ストレスの原因が対人関係だった場合、相手にとってわたしがストレスになる事を、考慮しなければならない。
ストレスの原因を排除する事即ち、相手との距離を置く事。
これは、相手からすれば、いきなりわたしが冷たくなった様に感じるだろう。
場合によっては、突然わたしが敵意を見せる様になったと感じて、戸惑う事もあるに違いない。
これでは、相手に対しても、失礼だろう。


こういう風に考えられる様になったのは、彼のお陰だ。

  俺の前では、感情を押し殺す事を禁止する。
  お前の感じているまま、
  全ての感情を素直に表現しろ。


彼から、申し渡されている、命令。
だからわたしは、彼と一緒の時に、それはちょっと…と感じた事も、正直に彼に伝える。
もっとも、そんな事は数える程しか無いけれど。

彼は、
『そんな考え方しか出来ないのか。
 可哀想なくらい性格曲がってるな』
とも、
『そんな事が気になるのか。
 だからお前は馬鹿だと言うんだ』
とも、言わなかった。

わたしを、正面から真っ直ぐ見つめ、しどろもどろなわたしの話を、きちんと最後まで聞いてくれた。
そして、わたしの感じた理不尽さを、しっかりと解消してくれた。
それ以降、『あの時、言ったのに…』と思う様なことすら無い。
本当に真摯に、わたしと向き合ってくれているのだ…と、心から感じ、安堵した。

わたしも、きちんと向き合える様に、なりたい。
彼に対してのみならず、今までは、自己否定という形で逃避してきた様々な問題とも、しっかり向き合い、ひとつひとつ解決していきたい。
だから、もう自分を騙すのは、やめよう、と、思った。


最近、SMは全くやっていないけれど、それでも彼は、わたしを導き続けてくれている。




渇き

2008/12/18(木) 12:08:44
決して気付きたくはなかった
己の本心に、気付く。

気付かぬ振りをして
己を騙し続けていたけれど、
限界突破してしまった事に、気付く。

その都度、処理していなかった感情は、
行き場を失った泥流となって
わたしの中で、逆巻いている。


これを、放出したい。
泣きたい。
暴れたい。
叫びたい。

けれど、出来ない。
わたし以外の人にとってそれは
既に遠い過去のこと。
そんな問題で今頃感情を爆発させるなど、出来ない。


責められたい。
彼に、激しく、責められたい。

激痛と恐怖に雁字搦めにされ、
暴れ、悲鳴を上げ、泣き叫ぶ。
そうしてわたしの中に溜まっていた澱は押し流され、
わたしは、落ち着きを取り戻す。
もとの自分に、戻る事が、出来る。
彼の居ない日常でも、無理せず微笑む事が
出来る様になる。


  そんな身体縛ったって醜いだけだ。
  んなもん、俺は見たくねえ。


己の身体のメンテナンスすら出来ず、
醜く肥え太った今のわたしでは、
彼の創作意欲を掻き立てられない。


わたしが再び彼の欲望を突き動かせる様になるまで、
わたしは、ひたすら、耐え忍ぶしか、無い。




発情

2008/12/21(日) 02:46:47
突然、発情期が訪れる。

思いも寄らぬものに触発され、身体の中で、
蜘蛛や百足がザワザワと蠢動している様な感覚が、
わたしの精神を侵食する。

パソコンを起動し、淫らな動画を、観る。
海外の、無修正動画サイトだ。

外国人特有の巨根が、女性の喉の奥に突っ込まれる。
頭を押さえつけられ、女性も目を白黒させている。

蛇の様な眼をした彼が、わたしの喉の奥まで突っ込んだ時の、
頭を掴んだ手の力の強さと、その苦しさを、思い出す。

蠢動が、下腹部に集中し始める。

ファックシーンは、後ろから激しく責め立てられているのが、いい。
ガツンガツンと突かれながらお尻を叩かれたり、
髪を引っ張られて喉が反り返ったり、
顎を鷲掴みにされたまま突き続けられたり、
そういうファックシーンが、いい。

身体の逃げ場を封じられた状態で、
彼が、後ろからわたしを使い、
そのペニスの到達する奥深くに、
激痛なのか快楽なのか判らない感触を打ち込まれ、
意識朦朧となる時を、思い出す。

下腹部の一点が、熱を持つ。
何本か観ているうちに、潤い始める。
身じろぎをすると、ぬるぬるとした淫らな液が、
溢れているのを感じる。

今すぐに、激しく、掻き回したい。
持っている道具を、思い浮かべる。
どれも、ひとりの時に使いたいとは思えない。
彼は、こんなに冷たくない。
彼は、こんなモーター音なんか、させない。
そう思った途端に、熱が一気に冷めていくからだ。

ここを鎮める事が出来るのは、生きた男性器だけ。
彼の、熱くて硬い、ペニスだけ。

両足を捩り合わせて、指すらも使わない。
そうしていると、わたしの一番敏感な核に、
微かな刺激が伝わり、身体が小刻みに震えてくる。

Tさん…

その名を唇に乗せた瞬間、呼吸が止まり、身体が硬直する…。


弛緩して、息を弾ませる。
これも、自慰行為による絶頂なのだろうか。
ぼんやりと、考える。
こんなに欲情してしまったのは、久しぶりだ。
月のものが終わりかけている事も、関係しているのだろう。

トイレに入り、生理用品を交換しようとする。
いつもの場所にあるべきものが、無い。
慌ててしまう。
激しく発情したわたしのヴァギナが蠢いて、
生理用品の紐を、中に手繰り込んでしまっていた。




ホテルにて

2008/12/24(水) 22:29:36
  お前…完全に淫獣モードだな。

その日の朝の、彼からのメールの文句。

逢いに行く前に、これから家を出る旨連絡し、ブログを更新した事も伝えた。

抱かれたい。
責められたい。
お願い…。

ブログのエントリーと、メールに込められた、わたしの懇願。
現在の彼にとっては、途方もない我儘になる。
醜く肥え太っておいて『お願い』などとは、厚かましいにも程があると、理解もしている。
それでも、欲望は最早、自分ではどうしようもないところまで、膨れ上がっていた。

彼は、わたしの願いを、聞き入れてくれた。

ホテルに入り、上着を脱いで掛けたりお風呂に湯を張ったりと、慌しいひと時を過ごす。
室内に流れていたクリスマス・ソングが、ふっと途絶えた。
彼が、有線の電源を切ったのだ。
行為の間BGMが流れているのを、彼は好まないし、わたしも好きではない。
静寂の中でじっと立ったまま、彼の動作を見守る。
彼は、わたしの前に立ち止まり、ゆったりとした笑みを浮かべた。
それを合図の様に、わたしは彼にしがみ付き、唇を求める。
彼もわたしを抱き締め、舌を絡ませてくる。
彼の腕が、わたしの背中を、腰を、お尻を撫で回す。
その力強い感触に、わたしの中の芯が蕩け、溜息となって零れ落ちる。

  ダイエット、頑張ってるじゃねえか。
  感触でも判るぞ…。


低く、彼が囁く。

  ほんとう?
  嬉しい…。


わたしも、微笑みながら囁き返す。
何度も何度も唇を貪り合いながら、わたしの衣服は剥ぎ取られていく。
彼が、背後に回った。
後ろから乳房を鷲掴みにし、激しく揉みしだく。

  あぁ…あ…ぁ…

呼吸が、激しくなる。
脳髄が、痺れる。
欲しがる猫の様に、腰をくねらせ突き出してしまうのを、とめる事が出来ない。
再び彼が前に回り、ジーパンを脱ぎ捨てた。
待ち侘びていたわたしは、すぐに跪き、彼の下着を脱がせるなり、飛び出したペニスを口に含んだ。

欲しかった。
これが、欲しくて、しょうがなかった。

想いの丈を込めて、これからわたしを責め立てる凶器を、舌と唇を駆使して丹念に愛撫する。
硬さも大きさも増していくそれを、喉の奥まで導こうと足掻く。
彼の手が、わたしの頭を掴んだ。
力が加わる。
わたしの意志とは関係なく、ペニスが奥深くに捻じ込まれていく。

がっ…ごごぉっ…

息が詰まり、異様な音が、喉から漏れる。
彼が、抽送を始めたが、そのストロークはとても遠慮がちだった。
わたしの脳の中に、複数の声がこだまする。
苦しい、苦しい、苦しい、苦しい……
嬉しい、嬉しい、嬉しい、嬉しい……
もっと、もっと、もっと、もっと……
いきなり彼が、ずぼっと無造作にペニスを引き抜いた。
突然放り出されたわたしは、その瞬間、嫌な感触があったのに気付いていた。

  歯…当たらなかった?
  痛くなかった?


呼吸を整え、涙と涎を拭いながら、彼に訊ねる。

  いや、大丈夫。

言いながら彼は、わたしを立たせてベッドに突き飛ばすと、わたしの下着を剥ぎ取った。




統合

2008/12/29(月) 17:15:27
彼のペニスが、わたしの中に突き入れられる。
そこは、既に充分に潤い、彼をするりと受け入れた。
深く深く侵入されて、わたしの口から歓喜が零れる。
背中が反り返り、早くもピクピクと痙攣し始める。
そんなわたしを押さえ込み、力強い抽送が始まった。

真上から降り注ぐのは、感情の窺い知れない、鉱物的な光を湛えた瞳。
その冷たさが、わたしの官能に油を注ぎ、わたしは、より一層燃え上がる快楽に身を焦がす。
突かれながらも、唇が欲しくなる。
すると、それを読んだかの様に、彼がわたしに唇を重ねる。
舌を絡ませ合い、啄ばみ合い、互いの唾液に塗れた唇を離す。

彼が上体を起こし、Tシャツを脱いで、かなぐり捨てた。
かすかに汗ばんだ身体を、再びわたしの上に重ねる。
彼の、年齢を感じさせないすべすべとした肌に、わたしは両の掌を滑らせる。
滑らせた掌は、お尻で止まる。
もっと、強く…
もっと、深く…
求めるわたしの腰が、彼の抽送に合わせて突き上げられる。

わたしの身体の形を、彼が変える。
その度に、新しい快楽の波がわたしをさらっていく。

ふと、わたしの中で誰かが囁いた。
今、ここで、彼がわたしに鞭を使ったら…?
蝋燭の蝋が、乳房に垂らされたら…?
首を絞められて、窒息しかかったら…?
それは、どんな感じだろう?
苦痛?
快楽?
…きっと、両方。
欲しい…
今まで味わった事のない感覚が、欲しい…

冷たい声が、答える。
一体どこまで欲が深いの?
この上まだ、淫らで異常な刺激が欲しいというの?

顔に、ぽたぽたと彼の汗が落ちてきた。
拡散し、様々な声を響かせていたわたしの意識が、ふっと焦点を結ぶ。
彼の瞳は、相変わらず黒曜石の光を放っている。
唇の上に落ちた汗を、舌を出して舐め取る。

欲しい…もっと欲しい。
淫らだろうが、異常だろうが、誰に遠慮する必要があるのか。
誰に迷惑をかけるというのか。
彼は、わたしを、否定しない。
わたしの欲望を、受け入れてくれる。
自分の欲望を、わたしに叩き込んでくれる。
彼が、居れば…。

彼が体勢を変える。
今までとは違った刺激、違った快楽に、わたしは悲鳴を上げる。
気持ち、いい…!
身悶え、頭を左右に振りたくる。
手が、彼の身体の上を、ベッドのシーツの上を、滅茶苦茶に暴れまわる。

その時、とても不思議な感覚が、わたしを襲った。
わたしの意識の中で、ぼそぼそと囁いていたたくさんの声が、一斉に唱和するかの様に、ひとつの言葉を叫び始める。
気持ちいい…!
気持ち…いい…っ!
ピシッ…という音が、した。
それは、生まれて初めて聞く音だった。
物心ついてから、常に感じていた、ブレている自分…。
写りの悪いブラウン管テレビの、ゴーストの様だった自分…。
このゴーストが、あるべきところにぴったりと、音を立てて嵌った…。
そんな感覚だった。
やっと、わたしの意志が、ひとつに統合された…。
彼のもたらす、全ての快楽を味わい尽くしたい、という意思に。
生きている。
わたしは、こんなにも悦びながら、生きている。
涙が、溢れそうに、なった。




もう一人

2008/12/29(月) 21:47:42
低く呻き声を上げた彼が、ぐったりとわたしの上に覆い被さった。
わたしは、その背中を精一杯の力で、抱き締める。
荒い呼吸を整えながら、まだ凶暴な硬さを保ったままのペニスを、わたしの中から抜いてしまう。

  一発目から飛ばし過ぎだな。

彼が、苦笑交じりに呟く。
手を伸ばしてタオルを取り、互いの汗を拭き合う。

わたしは、さっき脳裏を過ぎった願望を、口にしてみた。

  ねえ…突かれてる時に、
  鞭とか蝋燭とか、欲しいな…。


  突いてる時にか。

彼は、ちょっと困惑した。

  突いてる時は、そっちに集中してえんだよな。

  …そっか。

何となく、予想出来た返答だった。
彼は、何かひとつの事をする時、それに全精力を注ぎ込みたいというタイプで、だから、行為をしながら撮影する…というような事すら、気が散ると言ってやりたがらない。

  それやろうと思ったら、もう一人要るな。

  え?

彼が、至極当たり前の事の様に言う。

  誰かにお前を突かせて、俺が鞭とかを使う。
  …いいなぁ、それ。
  別の男にやられて悶えてるお前も見たいしな。


ニヤリと、邪な笑みを浮かべる。

  お前、誰かそういう男、見付けて来いよ。

  わたしが他の男とやっても、平気?

  おう。
  寧ろ、やれと言いたい。
  そんなもん見せられたら、
  俺のチンポはきっとギンギンだぞ。


彼は、とても嬉しそうに言った。
わたしも、そんなわたしを彼がどんな表情で観てくれるのか、見てみたいと思う。

  でも、探せって言っても、
  どこで探せばいいのかな。
  …ハプ・バーとか?


  ああ、あれも一回行ってみてえんだけどな。

  Tさん、お酒飲めない癖に。

わたしは、かつては酒豪と呼ばれた事もあるが、彼は話を聞く限り、下戸と言ってもいい程、お酒には弱い様だった。
そのわたしも、元夫と別居し、睡眠薬を処方される様になって以来、晩酌の習慣は絶えて久しい。

  それより切実なのはだな…。

  お金が、無い。

  そこだ。

仰向けになった彼が、呟く様に言う。

  世の中広しと言えども、
  金が無いからSM出来ねえSMカップルなんて、
  俺らくらいのもんじゃねえ?


  ほんと、そうかもね。
  他の人のブログとか見てると、
  いろいろやってるけど、あれって結局
  お金あるから出来るんだなぁって思うもん。


  だよな。

暫しの沈黙の後、彼が、ぼそりと言った。

  お前も、金持ちのサディスト、探すか?

  嫌。

思ったよりも、強い言い方に、なってしまった。

  わたしは、Tさんに責められたいの。
  Tさんと一緒に、愉しみたいの。


それにわたしは、経済的に恵まれた生活も経験がある。
思えば、その生活を維持する為に、わたしはどれだけ、自分を殺し続けていた事だろう。
そして、その経済力を失った時、相手にはそれしか魅力が無かったと気付いた時の、何とも表現し難い空虚感。
更には、そんなものを相手の魅力に数え上げていた、自分に対する嫌悪感…。

それからすると、経済力には全く関係なく、精神的肉体的にわたしを満たしてくれる彼の存在は、どれほど大事である事か。
打算なく、純粋に彼だけを求める事が出来る今を、わたしがどれほど幸せに感じている事か。

  まあ、もう一人って話は、
  その内機会があればって事にしておこう。


  ああ。
  よし、風呂。


彼が勢いよく起き上がり、ベッドから降りた。

わたしは心の中で、先の言葉に補足を入れる。

  それに、この先、まだ叶えたい欲望があるって事は、
  それだけ日々の生活に対するモチベーションも
  上がるってものだし…ね。
  目標があるって、楽しいじゃないの。


そして、こんな考え方を教えてくれたのは、他ならぬ彼である事に気付いて、微笑んだ。




邪魔者

2008/12/30(火) 00:06:57
湯船に、のんびりと身体を伸ばす彼。
その足の間に、わたしも身体を滑り込ませる。
他愛もない雑談で、緩やかなひと時を過ごしている時、ふと気付く。
鬱陶しく思いながらも、既に馴染み始めていた感覚が、消えている。
手を、左目の下に当てる。

  …痙攣、とまってる…。

  痙攣?どこが。

  うん、ここ1週間くらい、ずっと瞼がピクピクしてたの。
  もう鬱陶しくてさ。
  それほど目を酷使した訳でもなかったし、
  ダイエットで栄養不足になった所為かとも思ってたけど…
  何かのストレスだったのかも。
  完全に止まってる…。


先ほどの不思議な感覚といい、ストレス過多の兆候が、セックスでおさまるとは…。
わたしは、セックス依存症にでもなりかけているのだろうか。
ふとそんな不安が兆す。

けれど、それでも別に良いではないか。
彼は、貞淑な女など求めてはいない。
本能のままに快楽に溺れる、淫乱な牝犬を、欲している。
そして更に、彼自身の旺盛過ぎる性欲を持て余し、欲望のままに突き入れ、責め立てられる女を求めているのだ。
そんな彼がわたしの傍に居てくれる間は、セックス依存症であっても構わない、と、思う。

湯船の中で、手を使って彼のペニスを弄ぶ。
こうして、完全に寛いでいる彼自身の弾力を愉しむのも、大好きだ。
彼が、腰を浮かせて、ペニスを水面に出す。
わたしは、それを口に含んで、優しく扱く。
亀頭を吸引して、ちゅぽん、と離す。
繰り返す。

  ああ、それ…それが気持ちいい。

  ん…これ?

嬉しくなって、もっと繰り返す。


ふと、以前彼が、三穴制覇したい、と言っていた事を思い出す。

  口と、まんことアナル三箇所で出すんだ。
  1回のセックスで、だぞ、当たり前だろう。
  1回で3発、でなきゃ制覇とは言えん。
  出したら、そこには旗を立てる。
  お子様ランチの旗だ。
  制覇した証だよ。
  アナルの開発もだが、それよりお前、
  フェラチオ特訓しておけよ。
  口で逝かせるには、俺のチンポはしぶといぞ。


口だけで彼を逝かせるには、どれだけ特訓しなければならないか、ぞっとしながら、

  それ、やるんなら、直前1週間くらいは
  オナニーしないでいてよね…


と頼んだ事を、思い出す。


次第に漲って来る彼のペニスを、喉の奥まで飲み込む。
素早く頭を上に動かし、唇を滑らせる。
お湯が、ちゃぷちゃぷと眠たげな音を立てる。
口も、性器なのだと思う。
でなければ、しゃぶっているだけで、こんなに気持ち良くなる筈がない。
昂ぶってくる。
昂ぶりを、唇にそのまま乗せて、頭を激しく上下させる。
首を使って角度を変えながら、夢中で動かす。

また、引っ掛かる様な違和感を覚え、我に返る。

  ごめん、歯が当たった…。

  いや、大丈夫。

  ほんとに…?
  わたし、八重歯があるから…。


過去の男には、よく『お前は歯が当たって痛い』と言われていた。
それから考えると、わたしが『当たった』と認識出来る程の感触にも痛みを感じないなど、彼のペニスはどれだけ頑丈なんだ…と、驚嘆すら覚える。
それと同時に…。
今まで長年付き合ってきて、その存在にはすっかり慣れていた八重歯を、初めて非常に疎ましく感じた。
このままでは、情欲の赴くままにフェラチオが出来ない。
彼ではないけれど、それこそ『気が散る』。
邪魔だ。
…抜いてしまおうか…。
そう思いながらわたしは、八重歯を、舌先でそっと撫でた。




歯...(1)

2008/12/30(火) 00:16:19
わたしの歯並びは、驚異的に、悪い。
何処の歯科医にかかっても、まずはその歯並びの悪さに、必ず驚かれる。
片側の奥歯が全く噛み合っておらず、奥歯としての役割を果たしていないのだ。
ある歯科医に、歯の抜け替わる時期の経験を話すと、それが原因なのではないか、と、言われた。


乳歯から永久歯に抜け替わる年頃。
わたしの奥歯が、ぐらつき始めた。
奥歯が動き始めたのは、それが初めてだった。
母は、わたしを歯医者に連れて行った。
虫歯の時に行くいつもの歯医者ではなく、車に乗って、遠い所の歯医者に出掛けたのが、不思議だった。

ぐらついている奥歯の下から、永久歯が押し上げているレントゲン写真は、見た記憶がある。
『どうせ永久歯が生えてくるんだから、
 このついでに奥歯を全部抜いて欲しい』
母が、言った。
今にして思えば、それを了解する歯医者もどうかしている、と、思う。
『奥歯が抜け替わる度に、
 いちいち歯医者に行くのは面倒ですから』
わざわざいつも通っているのとは違う歯医者に行ったという事は、そういう事を引き受けてくれる歯医者を探して行ったのかも知れない。

この時の記憶は、非常に断片的だ。
憶えているのは、四肢を誰かにがっしりと押さえ付けられていた事。
顎をガクガクと揺さぶられる、恐ろしい感触。
バリバリ、メリメリと、硬い物が砕かれる様な音。
歯医者の『ホラ、泣かないで!』という苛立たしげな声。
自分自身の、獣の咆哮の様な悲鳴と泣き声。
そして…そんなわたしを笑顔で見下ろす、母の顔だ。

歯医者でのわたしの状態を、おそらくは父に報告している時の、
『もう、おっかしいの。
 殺されそうな声上げて、わーわー泣き叫ぶのよぉ』
という喜色に弾んだ口調も、耳に深く残っている。

当時は、小学生だったと思う。
歯に関する次の記憶は、給食の時間に飛ぶからだ。

給食の際は、机を動かし、正面に誰かが向かい合う形にするのが通例だった。
その日、わたしの前で給食を食べていた子が、突然言った。
『しのぶちゃんの食べ方、なんだか変!』
わたしは、何の事を言われているか、判らなかった。
同じグループの子どもたちが、皆でわたしの顔を覗き込んだ。
『わー、ほんとだ。
 うちのおばあちゃんの食べ方だ!』
『あ、そうだそうだ。そんな感じ。
 なんでそんなおばあちゃんみたいなの?』
そこまで言われて、初めて気が付いたのだ。
奥歯が全くないから、おかしな食べ方になっているのだと。
『奥歯を抜いたから、仕方がないの!』
必死で弁解するわたしの声は、離れた席からまでわざわざ覗きに来る子どもたちの嬌声に、無力にかき消される。
『ねー、ねー、見せて見せて』
『ほら、早く口に入れてよ。早くう!』
嫌がって抵抗すると、乱暴な男子が催促しながら頭を叩く。
無理やり口の中にパンを押し込まれ、仕方なく咀嚼すると、わたしを覗き込んでいた子どもたちが、腹を抱えて爆笑する。
『おばあちゃんだ!おばあちゃんだ!』
『お猿さんにも似てる!』
『あ、似てる似てる!』
何時までこの時間が続くのか。
もうクラスの全員は見終わったか。
さっさとわたしの前から立ち去ってくれないものか。
それだけを、考えていた。

家に帰り、その事を報告した。
『どれどれ?』
母親は、わたしに食べ物を与えて、顔を覗き込んだ。
咀嚼する。
母親も、爆笑した。
『ほんと、入れ歯の無いおばあちゃんみたいねぇ!』
わたしは、泣いたと思う。
泣きながら、母親がわたしの奥歯を抜かせた所為だ、と詰ったのだろう。
彼女は、表情を豹変させ、激怒して金切り声で怒鳴りつけた。
『びーびーびーびーうるさいっ!
 そのうち大人の歯が生えてくるんだから、
 それまで我慢しなさいっ!!』


妹たちは、その時期を迎えても、無理やり乳歯を抜く様な目には、遭わされなかった。
そしてわたしは、歯医者に行くと、あの時の診察台で味わった恐怖を思い出し、時には歯医者に笑われてしまう程、異様に緊張する様に、なった。




歯...(2)

2008/12/30(火) 01:37:53
歯に関することで、わたしにとってもうひとつ不幸だったのは、遺伝的に、歯並びの悪くなる要因をも持っていた事だ。

母方に似れば、歯並びは良い代わりに、がっしりとした顎になり、エラが張った顔かたちになった事だろう。
わたしは、エラの張った顔つきには、ならなかった。
父方の、細い顎の骨を、受け継いだのだ。
歯の形状は、母方を受け継ぎながら。
歯の大きさに対して、それを並べる顎の骨が小さい。
だから、自然歯並びは悪くなった。
一番酷かったのは、前歯が1本、完全に歯列の内側に生えている事だった。

母は、わたしの歯を見る度に、眉を顰めて言った。
『汚い歯並び。
 お父さんに似たのねぇ』

この八重歯は、噛み合う歯ではないから、変な場所に生えていても舌を噛むという事は、無い。
完全に内側に生えている為、ぱっと見られただけでは、八重歯があるとも気付かれない。
実害は無いという事で、歯列矯正をする程の事も無い、と言われていた。
『それに、矯正ってすっごくお金かかるしね。
 ものを噛んで食べられるんなら充分よ』
奥歯が片側、全く噛み合わない為、ものを噛んで食べるにも不充分だった事を、母親は、今でもおそらく知らない。
歯医者に対する恐怖心から、徹底的に歯医者を忌避する様になったわたしは、結婚した後になるまで、自分の歯並びについての詳しい説明を受けた事が、無かったからだ。

それでも、時に、虫歯の激痛を堪え切れなくなって駆け込む歯医者では、必ずこの八重歯を抜いてしまおう、と言われた。
放置していればどんな弊害があるか、説明される。
曰く、歯周病になりやすい。
曰く、空気が漏れる事で、言葉の発音が不明瞭になる。
『嫌です。抜きません』
わたしが拒否すると、歯医者たちは揃って、不審げな表情になった。
『どうしてですか?
 残していても、何もいい事ないですよ』
いい事は、ある。
あの時の恐怖をそのまま再現すると思われる、虫歯でも親不知でもない、健康な歯の抜歯。
それを味わわないで済む事それだけで、抜歯しないメリットは、わたしにとって充分だったのだ。
例え、その当時の男たちに、口でされると八重歯が当たる、と、文句を言われていても。


口を開けて、彼に、わたしの八重歯を見せる。

  何だそれ!?
  すげぇとこに歯があるな…。


彼が、吃驚して声を上げる。
わたしも、少し吃驚する。
今まで散々口づけを交わし、わたしの口腔を余すところ無く舌で愛撫しながら、この歯には気付いていなかったのか。

  うん…。
  Tさんのを口ですると、この歯が
  時々当たってしまうのよね。
  邪魔だから、抜いちゃおうかと思うんだけど。


彼は、それに対しては、何もコメントしなかった。


『あなたみたいに怖がられると、こっちも凄く怖いんですよ。
 そこまで緊張されると、痛いところに触れた途端、
 反射的に私の手に噛み付かれるんじゃないかって』

かつて、そうわたしを詰った歯医者が、居た。
歯医者さんにはそんな恐怖があるのか…と驚き、申し訳なく思いながらも、流れ落ちる脂汗と手の震えを、どうにも出来なかった。
そんなわたしが…八重歯の抜歯を検討するなんて。
それも、フェラチオやイラマチオを、思う存分堪能したい、という理由で。

そんなに、彼に溺れたいか。
そこまで、快楽を貪りたいか。

その通りよ。

己の内で生じた疑問の声に、正面切って、返答する。
彼が、わたしの淫乱さを引き出してくれる度に、わたしは、生きているのが楽しくなる。
ならば、なれるところまでとことん淫乱になりたい。
その為の努力を、惜しまない。

わたしの内から、それを非難する声は、響いて来なかった。




一級品

2008/12/30(火) 15:55:14
お風呂から上がった後も、わたしたちは、飽かずに絡み合う。

けれどもその日、彼は、責める為の道具には手を伸ばさなかった。
わたしを縛る為の縄は、持参してくれていたのに。

  その気になんねえ。
  スイッチが入らん。
  …どうしてだろうな。


求めたわたしに、彼が言う。

  他の事に、意識が言っているからじゃない…?
  音楽の事しか、考えてないでしょう?
  後は、仕事の事かな。


  ああ…それはある。
  もうすぐ、またライブだしな。
  仕事もな…暫くは、キツいだろう。


仕事を含む私生活での過渡期を迎えている彼は、己が性癖を満たす事に対する興味が、すっかり薄れているのだ。
反面、わたしの方は今、取り敢えずの小康状態。
色々と不確定かつ不安定な要素はあるものの、力添えをしてくれる存在には恵まれたし、仕事、ひいてはその収入が、余裕は無いけれども、安定はしている。

もっとも、今わたしが歩いているのは、細い細い一本道。
この先のどこかに、強烈な対人地雷が埋まっているのは、確定している。
避けて通れる脇道は、無い。
必ずいつかは、踏み抜かねばならぬ地雷。
それが炸裂した時はわたしにも、責めて欲しいなんて言える口すら、残っていないだろう。

ふと…己の性癖に着目し、その異常性を認識しても尚、それを満たしたいと求める行為は、もしかしたら余裕の産物なのかも知れない…と、思ったりする。
恋愛や性愛以外の部分で、思い悩む必要が無くなったからこそ、直面する悩み苦しみなのかも知れない…と、思う。
これはあくまで、わたし個人の考えなのだけれど。

まずは、生活の基盤を安定させる事。
これが、何ものにも変え難い、最優先かつ最重要事項だ。
ここが揺らいでいる時は、SだのMだの言っている場合じゃない。
そんな時は単純に、原始的な性的欲求が満たされれば、それで事足りる。
少なくとも、彼とわたしは、そうなのだ。

だから今、彼とこうしてホテルに居る事が既に、わたしたちにとっては大変な贅沢であり、それは淫獣モードに陥ったわたしの為であり…この上更に、責めて欲しいと無理強いする事は、わたしには出来なかった。
彼が、道具を用意して来てくれていた。
スイッチを入れる努力は、してくれた。
その事実だけで満足だったし、嬉しかった。

  無理してスイッチ、入れなくてもいいよ。
  Tさんが、やりたい様に、やって…。


彼に抱き付きながら、囁く。

  よし…じゃ、舐めろ。
  勃ったら今度は、後ろから突いてやろう。


耳元で低く囁かれたその声は、微かに嗜虐の色を含んでいて、わたしの背筋をぞくりとさせた。


幸せな時間は、瞬く間に、過ぎ去ってしまう。
ホテルを出る準備を始めねばならぬ時間が来た事を、予め仕掛けてあったアラームが、告げる。
延長料金を取られるなど、冗談ではないから、大急ぎで身支度をする。
準備が整い、あとは部屋を出るだけ…となった時、彼に、声をかけた。

  Tさん。
  今日も、ほんとにありがとうね。
  すごく、気持ち良かった…。


  そりゃあお前。

彼が、ニヤリと笑って続ける。

  俺は、金は無えけどチンポは一級品だからな。

一瞬、絶句した後、思わず爆笑してしまう。

  良かったなぁ、お前。
  こんなチンポが使えてよ。


歌う様に続けながら、部屋を出て行く彼の背中にわたしは、心の中で語りかける。
一級品なのは、貴方だよ。
わたしに、精神的充足感と肉体的満足感を、惜しみなく与えてくれる、貴方自身なんだよ、と。




抜歯

2008/12/31(水) 00:02:40
最近お世話になっている歯医者さんで、八重歯の抜歯を相談する。

そこは、異様に歯医者を怖がるわたしに対して、どういう治療をするのかとても丁寧に説明し、不安を減じようとしてくれる半面、患者の苦しみが歯医者の愉しみ…なんて言う、わたしにとっては余りに怖過ぎるブラックジョークを飛ばしてきたりもする、少しお茶目な先生が居る。
良心的で、腕も良く、歯に関する事なら、何でも気軽に相談できる。
それでも、まさか『フェラチオの邪魔になるんです』とは言えないので、体調が悪くなると根元が腫れて痛くなるから…というのを、理由にした。
丁度良い事に、疲労が溜まっていた為か、八重歯は根元の炎症を起こしてくれていた。

抜歯の日取りを決め、それまで服用する抗生物質を受け取る。
『前歯なんて、滅多に抜く機会ないですから、
 僕も楽しみですよ。ふふふ』
なんて、ぞぉっとする様な先生の冗談を背に、帰宅した。
とは言うものの、抜歯を決意出来たのは、口はともかく腕の良い歯医者に心当たりがあった事も、大きいだろう。
彼に、『抜く事にしました』とメールするが、それに関する反応は、やはり無い。
わたしを怖がらせ、緊張させる事が大好きな彼なのに、何故だろう…?
歯医者に関するトラウマの話をした事が無かったのは、抜歯が終わって落ち着くまで、思い出せなかった。

抜歯当日。
『いよいよですね。
 緊張してきましたか?ふふふ…』
歯医者さんは、妙にテンションが高い。
抜歯が大好きだ、と言っていたのは、もしかしたら、ブラックジョークでは無く本気だったのかも知れない。
麻酔を打たれている間は、緊張の余り、呼吸すら出来なかった。
効いてくるまで放置されるのも、無意味に甚振られている様な気がしてくる。

いよいよ診察台が倒され、器具が口の中に入れられた。
脂汗が、滲んで来る。
遠き日の、己の咆哮が、耳の底から蘇る。
メキメキメキ…という、身の毛がよだつ様な、異音が響く。
痛みこそ感じないが、口の中で、かなり強い力が作用している感触は、ある。
顎を揺さぶられたら、平静を装い続けられるだろうか…。
喉元までせり上がった悲鳴を必死で飲み込み、目を固く閉じた。
『はい、取れた』
え、もう!?
驚いて、目を見開いた。
恐怖に雁字搦めにされていたわたしでさえ、『早っ!』と思う程、鮮やかなお手並みだった。
『ほら』
ピンセットで摘んだ歯を、先生が見せてくれる。
磨き難い歯だっただけあり、煙草の脂が、とても汚い。
けれどもその形状は、どこにも損傷がなく、完全な歯の形をしており、思わず見入ってしまう程だった。
『持って帰る?』
『あ、はい』
当たり前の様に訊かれたから、こちらも当たり前の様に返事をした。
先生は、チャック付きのビニール袋に、ポトリと歯を落とした。

抗生物質と、頓服の鎮痛剤を受け取って、帰途につく。
リビングで寛ぎながら、ビニール袋に入れたまま、血に塗れた歯を眺める。
次に歯医者に行った時は、もう今まで程には緊張しない様な、そんな気がした。

  抜歯が終わりました。
  抜いた歯、貰ってきましたので、
  今度お逢いする時、ご覧に入れますね。


彼に、報告メールを打つ。
間髪入れずに、返事が来た。

  いらねえよ!
  こえーよ!


目を、瞬いた。
…そうか…無反応だったのは、怖かったからなのか…。
何が、怖かったのだろう?
歯医者?
抜歯?
それとも…わたし?
次に逢った時、ゆっくり訊こう。
立ち上がって、歯を洗いに行く。
歯根にこびりついた肉片が、中々取れない。
爪で、こそげ落とす。

この歯は、過去に囚われる余り、己を破壊する事しか考えられなかったわたしが…仕方がないから生きている、としか考えられなかったわたしが…生きる事愉しむ事に、積極的になれた、証だ。
早く…
早く、彼のを口でしたい。
気を散らさずに、思う存分…。
そう、思った。




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