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始動音

2008/06/04(水) 12:51:17
夕方、彼から帰りのルートを知らせるメールが入った。

  わたしの家の傍を通りますね。
  逢っていただけませんか…?


逢って、伝えたかった。
わたしを1時間半も待ってくれた事が、どんなに嬉しかったか。
彼に不愉快な思いをさせてしまって、どれだけ申し訳なく思っているか。

  いいだろう。
  俺はこれから○○へ行く。
  お前も○○へ向かうといい。


返事が来る。
そこは、以前彼がアクシデントに見舞われた町だった。
あの時、彼が、暗くなってから走るのは緊張する、と言っていたポイントを思い出す。
あそこを伴走出来る様にしよう…。
慌しく出掛ける支度をし、車に飛び乗る。

自分を憐れんで泣きじゃくっていた、24時間前のわたしは、もう居ない。
身体を動かし、家の片付けをしているうちに、どこかへ消えてしまった。
今は、一刻も早く、彼に逢いたい。
そして少しでも長く、彼と共に居たい。
その想いだけを胸に、危険を感じぬ程度に速度を上げる。

すれ違いになっては大変と、途中の道の駅で待機する事にした。
その旨メールを送り、バイクの音に耳を澄ませながら、彼を待つ。

彼のバイクが見えた時、様々な想いが胸を満たした。

無事に帰って来てくれた…。
またこうして、彼に逢う事が出来た…。

  こいつ…。

ヘルメットを脱いだ彼が、微笑む。

  お帰りなさい。
  …ごめんなさい…。


それだけ言うのが、精一杯だった。
言葉の出ないわたしは、思わず彼に抱き付く。

  おいおい、俺のルール、
  忘れてねえか?
  公衆の面前ではイチャつかない、だ。


  誰も居ないもん。

田舎町の道の駅は、静寂と闇に満たされている。
けれどもしも誰か見ている人が居たら、40女が人目も憚らず、若い男に抱き付く様は、さぞかし見苦しい光景だったろう。
(彼は、30歳代後半だけれど、かなり若く見えるのだ。)
イチャつくなと言いながら、彼の手もわたしの背中に回る。

  やっぱりお前は温かいな。
  湯たんぽに最適だ。


わたしの全身に、幸福感が満ち溢れる。
あれだけ怒らせた彼の体温を、再び感じる事が出来た悦びを、しっかりと噛みしめる。

その後わたしたちは、わたしの町のドライブインに移動した。
バイクを降りた彼が、助手席に乗り込んで来て、撮ってきた写真を見せながら、お土産話を聞かせてくれる。

  両手を出せ。

言われた通りにしたわたしの掌に、彼が小石を載せ始めた。
ポケットから次々と、結構たくさん出て来る。

  何これ、綺麗…。

  ここの河原で拾って来た。
  いくつか好きなの、選んでいいぞ。
  やる。


  いくつ?

  2、3個…。4個…。
  …3個。3個だ。


答えが変わる彼の言葉で、その小石たちに対する彼の気持ちが解る。
これは、彼の宝物なのだ。
その中からまずわたしに選ばせて貰える事が、とても嬉しかった。
ぱっと見て気に入った小石をまずは何個か選別し、ひとつひとつ吟味しながら、候補を絞り込む。
色が綺麗で、表面がスベスベとした小石を3個、選び出した。

  これにする。
  ありがと。


失くしてしまわぬ様、いそいそとポーチに仕舞い込んだ。

  お前は、明日も仕事休みか?

  うん。

  それなら…俺がここから帰る時、
  いつも使うルートを教えてやろうか?


彼と居られる時間が延びるのだ。
わたしに否と言える筈が無い。
今までわたしが使った事の無い道を、彼に着いて走っていく。
彼の住む街に着いたら、ラーメンを食べる事になった。

  どうだった、あのルート。

  距離的には、わたしの使ってるルートより長かった。
  走りやすさは段違いにいいけど、
  日中はあちこちポリさんが隠れていそうね。


  お前トバすからなぁ。
  あと、スタートダッシュする癖がある。
  だからあのルートの方が、燃費がいいぞきっと。


ラーメンを啜りながら、そんな会話をする。
彼がぐっと身体を寄せ、わたしの耳元に囁いた。

  ここのラーメン食った翌朝は、
  いつにも増してチンポがギンギンに勃つんだ。
  …残念だな、明日は逢えなくて。


鼻からラーメンを吹き出しそうになった。


ラーメン屋を出た後、彼が『じゃあな』とひと言、バイクの方に立ち去ろうとした。
わたしは、慌てて彼の腕を取る。

  なんだ?

  …もうちょっとだけ…お願い…。

翌日、彼は仕事で朝が早い。
それが判っていながら、我儘を抑えることが、出来なかった。

  …しょうがねえなぁ…。

苦笑する彼だが、その瞳はとても温かく和んでいた。
助手席に乗り込んできた彼にしがみつき、唇を貪る。

  ふふ…。
  お前、辛いヤツの味がする。


わたしだけがラーメンにたっぷり使った、唐辛子の事だ。

  Tさんも…ラーメン味だよ。

密やかにクスクスと笑い合いながら、唇を重ね続ける。
彼の舌が、侵入してきた。
わたしは、短い舌を一生懸命伸ばして、彼の舌に絡み付ける。
背中を這い回る彼の腕に、力がこもる。
『嬉しい』
『幸せ』
脳に浮かぶ思考は、それだけ。
このまま蕩けてしまいそう…。
その感覚に、身を委ね続けたいけれど、彼は明日、仕事がある…。
理性が戻って来た事を、少し恨めしく思いながら、唇を離した。

  今日も逢ってくれて、
  ほんとにありがと…。


  ん。

おやすみの挨拶を交わし、彼が車を降りる。
ドアを閉めようとして、ふと手を止めた。

  しのぶ。

  はい?

  病気に負けるなよ?

  …はい…!

バイクのテールランプが見えなくなるまで、その場で彼を見送る。
キーをひねる。
闇の中、愛車の始動音が、轟いた。



コメント

しのぶさん
良かったですね。。。Tさんは、しのぶさんをしっかり支えて下さってるのですね。 しのぶさんの第一歩。
おめでとうございます。  ゆっくりでも、しのぶさんのペースで頑張って下さいねっ! 

鍵コメの通りすがりです

お言葉に甘えて拝見しに来ました♪そして図々しくコメしちゃいます。


幸せそうで何だかジーンとしてしまいました。勝手に幸せお裾分けさせて頂いた気分です。
しのぶサンも主様も素敵ですね。
どんな高価なモノより気持ちの入ったモノのほうが嬉しいですよね♪宝物のお裾分けとか羨ましいです(≧ω≦)
ホントにホントに良かったですね。

>愛奈さん
コメント、ありがとうございます。
彼のお陰で、今まで心の奥底に沈殿し、腐敗していた何かの一部が、浄化された様な気がしています。
自分の歩むペースを見失わない様、例え蝸牛のような速度であっても、とにかく前進していこうと思います。


>マシェリさん
再び訪れてくださって、ありがとうございます。
マシェリさんの鍵つきコメントも、心に響きましたので…幸せな気持ちのお裾分けが出来たのなら、とても嬉しく思います。
彼の心のこもったお土産…大事にしたいです。

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