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広がる世界

2008/05/19(月) 11:18:38
彼と一緒に、楽器店へ行った。
買いたい楽器の下調べの様だった。

  楽器店って、行った事あるか?

  ピアノを習ってた頃は、時々行ってた。
  もう大昔の話だけどね。


  楽器店は、面白いぞ。
  色んなヤツらが、自分の世界に入り込んで
  色んなパフォーマンスをしている。
  時々、彼女を連れて来てるヤツもいる。
  彼女の前で、自慢のプレイを披露してるが、
  音楽に興味のない彼女だと、
  すげぇ冷めた態度でつまらなそうにしてたりする。
  そういうのを見るのもまた面白い。
  俺は、楽器店を『動物園』と呼んでいる。


店に向かう車中で、彼が言った。
そのシニカルな表現に、わたしは思わず笑ってしまう。

楽器店に着くと、確かにそこには色んな人々が居た。
電子ピアノやドラムセット、エレキギターやサックス…。
色々な音が、溢れていた。

  ピアノを習ってたんだろう?
  何か弾いてみろ。


彼に言われたが、突然のリクエストに狼狽えたわたしは、『猫踏んじゃった』でお茶を濁した。
鍵盤に向かったのは、25年ぶりだろうか…。
指が、全然思い通りに動かない事に、驚いた。

ギターやドラムを、一心不乱に演奏している人々が居る。
物珍しくて、足を止めて思わずじっと眺めてしまう。

  な?
  面白いだろう?
  動物園だろう?


  うん。

  忘れるなよ?
  俺らもその動物のうちなんだぜ?


その言葉通り、彼も、ドラムを叩いたり電子ピアノを弄ったりしていた。
楽器は一通り出来るとの事だった。
そんな中、ピアノで彼が奏でた曲に、ふと惹かれるものを感じた。
演奏がとまった時、最後まで全部聴きたいと思わせる曲だった。

  それ、なんて曲?

  オリジナル。

  えっ?


今まで、自分で作曲するという人の作品を、聴いた事がない訳ではない。
中には、地元のアマチュアバンドでは、かなり有名だという人もいた。
けれども、そのどれを聴いても『器用ね…』という以上の感想を抱く事はなく、嬉しそうに聴かされ、感想を求められていると感じられても、コメントに窮する事ばかりだった。
しかし、彼が聴かせてくれた曲は、そうではなかった。
何かわたしを、ハっとさせるメロディーを持っていた。


以前、茅葺屋根の民家を見て歩きながら、こんな田舎のこんな家で暮らす事を夢想して語り合った時、彼は行った。

  グランドピアノを置いて、
  創作活動に打ち込みたいなぁ…。


その時わたしは、それまでのオリジナル曲を聴かせて貰った時の、微妙な気持ちを思い出し、曖昧な反応をしたと思う。


電子ピアノが、自動でリズムを刻んだまま放置されている。
彼が、そのリズムに合わせて鍵盤を叩く。

  今の曲は?

  即興。

  えっ!?

半ば呆然としているわたしの前で、彼が他の曲を奏でる。

  それも…オリジナル?

  うん。まだ譜面には起こしてねえけど。

ここまで来ると、わたしは絶句するしかなかった。
どの曲も、印象的なメロディーラインで独特の雰囲気を持ち、もっと聴いていたいと思わせられる曲ばかりだった。

  お前、俺が音楽やるっつっても、
  どうせ大した事ねえって思ってただろ?


彼が、笑いながら言う。
その時は適当に誤魔化したけれども、正直に言うと、その通りだった。
彼は今まで、嘘や見栄で自分を誤魔化した事はない。
それをわたしは、よく知っていた筈なのに…。
けれどもこうして、彼の音楽は、わたしの感性を揺さぶることが判った…。


田舎の山奥の、古びた日本家屋。
彼の奏でるグランドピアノの音を聴きながら、囲炉裏の前や彼の足元で、猫の様に丸くなってうとうとと微睡む…。
そんな、幸せで穏やかな時間を過ごす事を、夢想する。

彼を、知れば知るほど…。
わたしの夢想の世界は、広がってゆく…。




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